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COLUMN 5

西鉄高速バスジャック事件の被害者になって

山口 由美子

 私は2000年に起きた西鉄高速バスジャック事件被害者の一人です。佐賀から福岡天神行のバスが17歳の少年に乗っ取られ、一人死亡、二人が重傷を負った事件です。
 バスが高速道路に入ってしばらくして、少年が突然立ち上がり牛刀を振り上げ、「このバス乗っ取った」と声を上げました。トイレ休憩が取られた時、降りた方の戻りが遅いことに腹を立て、私に斬りかかったのです。私は顔や手・首を斬られ座席から通路に転がり落ち、床に座り込みました。目の前にあったひじ掛けに傷が骨まで達していた左手を置き、傷の浅い右手で身体を支え、”少年を殺人者にする訳にはいかない”との思いと”わが子のためにもまだ死ねない”という思いで耐えました。その時、怖いという思いはなく、”少年の心がこんなにしなければいけないぐらい傷つき追い込まれていた”と感じました。その後、乗客が窓から逃げたことで、私と一緒に乗っていた塚本さんが刺されていました。 


 事件後、加害少年が不登校からひきこもりだったことを知りました。カウンセリングを受けた旧知の精神科医から少年の居場所のなさが語られた時、こうした少年たちのための居場所をつくりたいと思いました。事件から1年後、私は仲間と共に不登校の子を持つ親の会を、さらに1年後に子どもの居場所「ほっとケーキ」を開設しました。居場所では、来たばかりの頃には下を向き目も合わせられなかった子が、”ここでは学校に行かなくても、いい子でなくても大丈夫!”と思えた時、笑顔で目と目が合うようになります。私たちスタッフが、子どもから受け入れてもらった瞬間です。


 その後の2006年、私が佐賀少年刑務所から、入所者の初期教育として講和を」との依頼があり、今も月に1回、講話に出向いています。被害者の話と聞いて、はじめは責められると思い固くなっていた入所者の中には、こちらが話していくうちに顔が柔らかくなり涙する方もいます。以下に入所者の感想文を載せます。
「先日講話がありました。正直面倒臭いなぁという気持ちでしたが好奇心で聞きました。講話が始まり心から興味が湧きました。バスジャックはいろいろとショッキングな事件でした。被害者の方は重傷を負い、連れの方は犯人に殺され、しかも犯人は17歳、色々と問題のあった犯人を被害者の方は、恨むでもなく、かといって許すでもなく、見守ると言っていました。これはとても大変な事と思います。犯人の今後を見守っていきたいと、自分を切り付けられ、知り合いを殺した犯人を。優しく厳しい言葉だと思います。
(中略)僕は今罪を犯して刑務所にいます。今回この講和を聞いて考えが変わった気がします。今後は、人の心を理解できる一人前の大人になって社会復帰できるよう努力していきたいです。(以下省略)」

佐賀少年刑務所における刑執行開始時指導

 私はこのように感じてくれる人が一人でもいると、嬉しくなります。講話で一番伝えたいことは、”再犯して欲しくない!”ということです。二度と繰り返さないために、教官の方々や自分自身と向き合い考えて欲しいと。そして、人は変われること。私も事件に遭って変わりました。起こったことは変えられないけれど、向き合い方は変えられるということを伝えています。さらに、「自分の人生です。自分で自分を投げ出さないでください。」とお願いしています。